映画゛紙の月」を観る
映画「紙の月」を観る。直木賞作家・角田 光代:原作、宮沢 りえ主演、吉田 八大監督作品という話題の映画である。第11回東京国際映画コンペテション部門で最優秀女優賞(宮沢りえ)と作品賞(紙の月)の2冠に輝いているだけあって、人間の心の奥底を見事に描いた作品で、実に見応えがあった。主人公の梅澤梨花は銀行の営業担当契約社員。何不自由のない生活のなかで、ちょっと生じた心の隙間がどんどん広がって、「億」という大金を横領するに至るというストーリーだ。元銀行員として、現役時代に身近な体験はなかったものの、おカネを扱う商売だけに、営業マン、管理者時代を通じて、そんなリスクとは常に隣り合わせだったことを思い出し、ぞっとする・・・
この映画の冒頭と最後に出てくる梨花の中学時代、その聖歌合唱シーンに面食らう。彼女はカトリック系の女学校に通っていたのだ。親の財布から盗んでユニセフに不相応な寄付をした梨花に修道女は叱る「あなたは施しをする時、偽善者たちが人から褒められようと会堂や街角でするようにラッパを吹きならしてはいけない」と。梨花は愛した若き大学生「光太」を助けるために「施し」をするわけだが、しかし、それは横領したカネだ。贈った人(横領された預金者)が、誰かに(光太に)カネを贈っているという「自覚なき贈与」と言えなくもない。大澤真幸・社会学博士は言う「法的には犯罪だが、哲学的には、真実の贈与を媒介したと見なすこともできるのではないか。この映画は横領を肯定はしていないが、贈与に伴うとてつもない深い逆説を提示している」と・・・宮沢りえの「濡れ場」など、どこかへ吹っ飛んでしまう・・・
今日の一句は、「こんな日は 甘くなるまで 人参かむ」石田杜人。
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